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ほうえいふんか
宝永噴火
岡本 かの子
「文学界」1940(昭和15)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 页
それが淀みなく東へ東へと走り続けるのである。そうは認めたものの慧鶴は一向驚くこともなかった。むしろ当然、そうするのがよいのだという気がしてただ黙って目送していた。やがて三十分も経ったであろうか。獣の行列は遂に尽きた。そして一番しまいに殿りだとでもいうように大きな熊が一疋、無恰好な形をしてのそのそ列を追って行った。それは可笑しかった。あとは、富士山麓の夜半の景色は、一層静まり返り、冴えた月の光が寒さと共に大地へ音もなく浸み徹るだけであった。慧鶴は確かりして来て意識を腹の底に据えて鶏の鳴くまで深い思惟に入った。
ゆうべは妙な地響きがしたと駅の人々がちらほら噂し合っている十日の朝から、今までにない激しい地震と一緒に富士の山麓の方に当って何処という個所は判らず鳴動の音が聞えて来た。初めは一日に二三度ずつぐらいだったが、日を経るに従ってだんだん度数を増し、二十二日の夜には三十度にも及んだ。その前から用意のいいものは家の外に小屋掛けして寝起きしたり竹藪の中に仮住居をこしらえたりしていたが、もう家の中にいるものはなくなった。ちょっとの用事にも人々は匍って歩いた。