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ほうえいふんか
宝永噴火
岡本 かの子
「文学界」1940(昭和15)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 页
自然だとて慾望もある、肉体もある。あのすざましい噴火の焔、あれを見て誰が意志の無いものと思えようぞ。このごうごうと撓う大地、誰が無生物と思えようぞ。それは取りも直さず人間の延長なのだ。人間こそ彼の延長なのだ。そしていま吐きに吐く真実をだ、慾望をだ、苦しみをだ、力をだ。不幸にしてわたし達は稀有な望みの為めに、噴火の為めに潰れるかも知れない。だが、それが何だ。五百年間一人も抱かなかった生命の慾望を現身に意識づけたということだけでもわたしたちは幸福じゃないか。潰れて死ね、富士も自分も、他のもののために潰されて死ぬのではない。自分で吐く叫びによって擲ち殺されるのだ。噴火によってわたしたちは死ぬのだ。
落灰、墜石は二十三日から二十七日まで五日の間、降り続いた。どこを見ても枯色の塵塚ばかりとなった。あたりはすっかり灰色の世界となった。昼間から暗いので灯を点す家もあった。それが墓地の中の線香ほどに見えた。坐を組んでいる慧鶴の前半身も同じ灰色で染められた。困ったのは呼吸をする鼻から灰が入り、頻りに咳が出ることであった。慧鶴は手拭を一重にして鼻の上を巻き、これを防いだ。