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みのるさんのせいしんぶんせき

実さんの精神分析

夢野 久作

「喜多」1932(昭和7)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,886 字 · 10 页

青空文庫

実さんが舞台上に発散する妖気のあらわれは、そうした心境の奥の奥からほのめき出る痛々しい感じを多分に含んでいるのだ。

実さんは自分の一刹那の気持を分析する力が極めて強い。サシの型一つを練習するのに何十遍となくサシてみても、そのサシが純粋にならないと、忽ち両脚を踏みはだけて、両手を肩の処から振り千切るように振りまわす。それから又繰り返してサシてみても息が切れて、汗が出るばかりでうまく行かない。トウトウ悲鳴をあげて「誰か背後から突き飛ばしてくれ」と叫んだりする。それが十六、七の時代のことである。毎晩袴を穿いて、扇を抱いて寝ていてハッと眼をさますと、すぐに舞台に飛び上ったのもその頃の事だ。だから今でも実さんが舞台に立つと臓腑がキリキリと巻き締まって、毛穴がピッタリと閉じるのが眼に見えるように思う。血の気がなくなって、奥歯がギューと締まって夏も冬もわからなくなる……それが実さんの妖気の正体だ。能ではない。芸術でもない。悽愴たる鍛練の妖気だ。抜いただけで人が斬りたくなる剛鉄の妖気だ。

こうした性格の反映として実さんは非常に大先生の言葉を気にする。素人評を問題にもする。