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よい(ひとまく)

宵(一幕)

宮本 百合子

「女性日本人」1921(大正10)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,834 字 · 18 页

青空文庫

良 三 おい、おい(たしなめる)「奥さん」になるなよ。そう無茶を云ったって仕様がないじゃあないか。(二重の意味ある声)あの男だって、偶の楽しみであって見ればフイにされたくもなかろうさ。(心に湧く感情を、強いて紛らすように、髭の辺を撫で、部屋を歩き廻り始める)

やす子 (忽ち、或ることを直覚する。鋭い表情で良三を見詰める)弁解?

やす子の顔には、歴然と不愉快、嫌厭の表情が現れる。唇をかみしめながら、無言で計温器を出し、灯にすかして見る。殆ど叱責するような語調。

やす子 貴方! 八度一分よ。(緊張した沈黙、じっと喰い入るように落付かない良三を睨まえていたやす子は、怒った牝獅子のように憤然として)貴方!(唇が震える。それをぐっと堪(こら)え)私は、貴方の意地で、子供を殺してはいられませんよ。

良 三 (打たれたように、やす子を見る。つや子を見る。益々落付きなく部屋を歩き廻り、立止り、何か云おうとする。が、止め、遽(あわただ)しく部屋を出、廊下に消える。)

やがてベルの音。

良三の声 (沈んで重々しく)小石川の九百五十二番。

やす子、思わず深い深い溜息をつき、つや子を見、涙をほろほろとこぼす。