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よい(ひとまく)
宵(一幕)
宮本 百合子
「女性日本人」1921(大正10)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,834 字 · 18 页
どうしろと云うのだ!(次第に語気烈しくなる)
やす子 (感動した顔をあげる)……だって、――それは嘘ではありませんことよ。貴方!(凝(じ)っと良三を見る)
良 三 嘘ではないって――書く動機がか?
やす子 ええ。――それは確に少し何だか……そうね、芝居がかりかも知れないけれども、ほんとはほんとですことよ。あの方は、ほんとにそういう感動に打れてお書きになったのですわ――(低い、厳かな声)一体、貴方、何をなさったの?
良 三 何をなすった? ハハハ(神経的な笑)細君に迄そう詰問されちゃあ立つ瀬がないね。何でもありゃあしないのさ、(自ずと弁解的な口調に落ちる)ほら、いつだったか、余程前に、岡や何かと釣に出かけようとしている時、柳田から電話が掛ったことがあったろう?
やす子 (手紙をとりあげ、見るともなく眺め、考えに沈んでいる)そうでしたかしら、思い出せませんわ。
良 三 その時、奥さんが自分で電話に出て、僕に来てくれと云ったのさ、去年生れた子が、どうも呼吸器を悪くしているらしいからってね。然し、僕の方だって偶(たま)の休みで、せっかく岡たちとも約束してあるのだから、事情を云って断ったのだ、ほかに仕様がなかったからね。