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さびしきうお
寂しき魚
室生 犀星
「赤い鳥」1920(大正9)年12月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,800 字 · 10 页
または木の根などに、からだが痛むのも関わないで、擦り寄りながら、くるしそうに悶えているのでありました。
「おれのまだ見ないところがある。この岸さえ攀じのぼってゆけば、それがはっきり判ってくるのだ。おれは毎日この岸辺にきて空の方をながめている。岸つづきの珍らしい山河や、夜になると明るくなってくる都会が、この岸つづきの果にあるのだ。おれはそれを考えるとたまらなくなる。」
かれはそう思いながら、じとじとになった岸の土をぱっと呑みこんでは、くるしそうに吐いていた。泥にごりした水が乱れた汚ない水脈をつくっては流れた。
「この土のあじわいさえも、いまはおれを苦しめるばかりだ。おれは一日も早く明るい地上に出てゆきたいのだ。ふしぎな地上、まだ見たことのないものが、数限りなくある地上――。」
魚は考え沈みながら、ぼんやりと、こんどは疲れきって浮いていました。それはまるで日光に透いた沼水のなかに、いつの間にか鱗のいろさえ衰えかけていたが、それでも、できるだけの努力と我慢とをつづけて、しつこく、その岸辺をはなれようとはしなかったのでした。他のいろいろな魚族はみんな暗く涼しい底の方に沈んで、やすらかに昼間はねむりふけっているのでした。