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さびしきうお
寂しき魚
室生 犀星
「赤い鳥」1920(大正9)年12月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,800 字 · 10 页
誰一匹として古いこの魚が、水の上にいつも動かないでいるとは気がつかなかったし、そんなことは若いぴちぴちした魚族にとっては何でもないことでした。唯かれらは時々底の方から、水の上にぼんやり浮いている大きな古い魚の姿を、まるでそれは描いたような姿でいることを不思議そうにながめていました。なかには、
「あれはやはり魚族のうちだろうかな。ああいう大きなやつが、この沼にいたかな。」
そう鮒のようなものがいうと、とぐろを巻いていた長い魚はこう答えました。
「いや、あれは魚族ではあるまい。いつもあそこにいるから。まだおれは、あいつの動いたのを見たことがない。」
ところがまた一匹の鯉のような怜しげな尾とひれをもった魚が、
「あれはこの沼じゅうで一番大きな魚だ。あいつは何年前からかしらないが、あそこにじっとしてふしぎに何かを考えているのだ。あれは何も食わないらしい。水ばかりを呑んだり吐いたりしているらしいのだ。あれのそばへ寄ると、なんだか厭な匂いがする。」
そう言って、きみわるそうにその影をしずかに眺めました。
「だが、あいつはいったい、何を考えているのだろうか。」
鮒のようなものが、水垢を掻きながら欠伸をしいしい言いました。