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ふじ

富士

岡本 かの子

「文芸」1940(昭和15)年11月号~1941(昭和16)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,579 字 · 82 页

青空文庫

凍るほど冷く感じられたおんなだったが、執拗く逞しく激しい火の性を籠らしている。その現れのようにこの涙型の石が血の色に赤く染っていることよ。石が尾鰭まで生やして、魚になっても生き上らんいのちの執拗さを示している。娘が何度も青春を迎えるといった言葉が思い出される。

翁は掌の上に載せた火山弾にだんだん切ない重みを感じながら、その娘に対し氷にもなれというような呪詛をかけたことのおよそ見当違いでもあり、無慈悲な仕打ちであることが悔まれた。

今頃、娘はどうしているだろう。福慈岳には夏に入るので白雪でも頂いていやしないか知らん。

翁はすごすごと小石をまた懐へ入れた。苫に当る雨音を聞きながら一夜を寝苦しく船中に明した。

房総半島に上り、翁は再び望多の峰ろの笹葉の露を分け進む身となった。葛飾の真間の磯辺から、武蔵野の小岫がほとり、入間路の大家が原、埼玉の津、廻って常陸の国に入った。

筑波嶺に、雪かも降らる、否諾かも、愛しき児等が、布乾さるかも

山の祖神は、平地に禿立している紫色の山を望み、それは筑波という山であって、それには人身の形をした山神が住んでいることを聞き知った。