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てらだせんせいのついおく
寺田先生の追憶
中谷 宇吉郎
――大学卒業前後の思い出――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,152 字 · 26 页
暫く話をしているうちに、先方から、何だか君は見覚えがあると言い出された。話して見たら、その方は昔この問題の査問会の委員の一人だったということであった。「ああそうだったのか、随分大きくなったものだね」と言われて這々の態で逃げ出したが、あの頃は随分生意気な小僧だったことだろうと思いみて聊か辟易した。それにしても世の中のことは、何時までも後をひくものである。
以上のように書いて見ると、あの狭い一部屋の実験室では、随分意義のある研究が、沢山並行になされていたことになる。ちゃんとした助手などは一人もいないし、装置も学生の練習実験程度のものしかなかったのに、あれだけの研究がとにかく進行していたのは、やはり先生がよほど偉かったからであろう。
霜柱の研究といっても、先ず手始めにコロイドの性質に馴れようというので、M君の仕事は、硝子板の上にゼラチンを流して、リーゼガング環を作ることから手をつけることになった。この方はそれで、硝子板とゼラチンと外に薬壜が四、五本並べば、もう仕事が始められたのである。
HM君の「地球磁気の根源に関する」大研究も、検流計が一つとあとはアスベストスの棒と、手細工のがらがら廻る歯車とが出来上れば、とにかく実験が始められた。