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てらだとらひこのついそう

寺田寅彦の追想

中谷 宇吉郎

「寺田寅彦の追想」甲文社、1947(昭和22)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,683 字 · 40 页

青空文庫

その帰りの車中で書かれたのがこの手紙であって、かなり長い手紙の四分の一ほどを転載したものである。私はその二月に立って英国への途上にあった。先生は旅行嫌いで有名であり、汽車にのるとひどく疲れられた。私達健康なものでも車中で物を書く時には、文章は乱れがちになる。この手紙は、先生が長途の旅行の帰りで非常に疲れた状態で、しかも弟子への手紙のことであるから、気を使わずに書き流されたものであろう。それがこういう文章になるということは、実に驚くべきことである。

以上の話は、先生が大患以後、活力をとり戻され、それが異常な発展をとげて、絢爛たる研究生活にはいられる転換期の四、五年間のことを主に書いたことになる。昭和三年に私は文部省の留学生として英国へ行き、五年に帰朝して、そのまま札幌の大学へつとめることになった。その後先生の臨終の枕頭に立つまでの五年の間、遠く北海道の空から、先生の物理学が寺田物理学とでも称すべき新しい学問に発展して行く姿を、驚嘆の念をもって眺めていた。

物理学のような、科学の中でも特に基礎的な学問に、寺田物理学というような個人の名前をつけることには、異論がある人が多いであろう。