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じんじょういちよう

尋常一様

北大路 魯山人

「独歩」1953(昭和28)年

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 1,562 字 · 4 页

青空文庫

君は、本当のものを見ないから見まちがうのだ。耳は、本当のことをききたがらない。舌は本当の味を一つも知らないから、ごまかされるのだ。手は、あたりまえのことをしないから、庖丁で怪我をするのだ」

「分ったようで、分りません」

「そうだ、なかなか、あたりまえのことは分りにくいものだ。いや、分ろうとしないのだよ。ハハハ……。いろいろききたければ、わたしが、近々本を出すから、それを読んでくれるといい。それには、あたりまえのことしか書いてないが、多分、君の聞きたいことがみんな書いてあると思うよ」

「そうですか、ぜひ、読ませていただきます」

客は帰りぎわに、なにか書いてくれといった。玄関へかけるのだという。そこでわたしは、さっそく客のいう通りに、色紙をとりあげ、筆をもった。

「玄関へかけるのですから」

客は、念を押して頼んだ。

そこでわたしは「玄関」と書いて渡した。

「先生、玄関と書いてくださったのですか」

「そうだ」

客は、まだなにかいいたそうであったが、なにもいわずに帰って行った。

玄関であっても玄関でないような玄関もある。さっきの客も、入り口だか、便所だか、靴脱ぎだか、物置だか分らぬような玄関を作ったのかもしれない。