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ちいさきものへ

小さき者へ

有島 武郎

「新潮」1918(大正7)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,154 字 · 21 页

青空文庫

今日はいよいよ退院するという日は、霰の降る、寒い風のびゅうびゅうと吹く悪い日だったから、私は思い止らせようとして、仕事をすますとすぐ病院に行ってみた。然し病室はからっぽで、例の婆さんが、貰ったものやら、座蒲団やら、茶器やらを部屋の隅でごそごそと始末していた。急いで家に帰ってみると、お前たちはもう母上のまわりに集まって嬉しそうに騷いでいた。私はそれを見ると涙がこぼれた。

知らない間に私たちは離れられないものになってしまっていたのだ。五人の親子はどんどん押寄せて来る寒さの前に、小さく固まって身を護ろうとする雑草の株のように、互により添って暖みを分ち合おうとしていたのだ。然し北国の寒さは私たち五人の暖みでは間に合わない程寒かった。私は一人の病人と頑是ないお前たちとを労わりながら旅雁のように南を指して遁れなければならなくなった。

それは初雪のどんどん降りしきる夜の事だった、お前たち三人を生んで育ててくれた土地を後にして旅に上ったのは。忘れる事の出来ないいくつかの顔は、暗い停車場のプラットフォームから私たちに名残りを惜しんだ。陰鬱な津軽海峡の海の色も後ろになった。