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ちいさきなにも
小さき花にも
豊島 与志雄
「光」1948(昭和23)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,115 字 · 21 页
なにを真面目くさってるのよ。さあ、祝杯、祝杯。」
私は仕方なしに、また、祝杯を挙げた。
「その調子。今晩はみんな酔っ払うのよ。なに、大丈夫。ここで、ざこ寝をしよう。」
いつのまにか、電燈がついていた。私は悲しくなった。もう帰ろうと思い、先生に原稿のことを改めて頼んだ。
「分ってる、分ってる。」と弘田啓子が手を振った。
「書くよ、書くよ、必ず書くよ。」と先生も調子を合せた。
「君は似てるね。」
皆があとを続けてるうち、どうしたのか、先生は黙りこんでしまった。祝杯がすんでから、先生は言った。
「ちょっと待ってろよ。僕一人でやる。……君は似てるね。誰にだい。犬にさ。俺が犬だ。それは奇遇だ。」
先生は拳固で食卓を叩いて調子を取った。
「犬だ、犬だ。みんな犬ばかりだ。」
私は眼を見張った。空気が変ってきたのだ。
「犬でないという自信のある者は、手を挙げてみろ。俺だって犬だ。だが、この犬を、石で打ち得る者はあるめえ。みんな犬さ。習慣の虜さ。いつも同じ道ばかり歩いていやがる。いつも同じ所に小便をひっかけて、それをかぎながら、同じ道ばかり歩いていやがる。自分の小便の匂いがねえと、心細えんだ。