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ちいさなできごと
小さな出来事
寺田 寅彦
「中央公論」1920(大正9)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,533 字 · 29 页
た後ではどこか平常とはちがった心持になっているものと思われる。そうだという事が、その後に自分の身辺に起る些細な事柄に対する自分の情緒の反応によって証明される場合があるように見える。
この日Qが用意して来た材料は、私の病気に関した事であった。つまり私が、わざわざ自分の病気をわるくして長引かしては密かに喜んだりする一種の精神病者に似た心理状態にあるという事を巧みに暗示すると云うよりはむしろ露骨に押しつけようというのであった。自分はQに云われる前から自分の頭の奥底にどこかこのような不合理な心理状態が潜んでいるのではないかと疑ってみた事があっただけにこのQの暗示はかなりのききめがあった。
Qが帰ってから昼飯を食った。それから子供部屋へ行ってオルガンをひいた。
その日はよく晴れて暑い日であった。子供部屋の裏の縁先にある花壇には、強烈な正午過ぎの日光が眩しいように輝いて、草木の葉もうなだれているようであった。花豆の赤い花が火のように見えた。しかしこの部屋はいちばん風がよく吹き通すので、みんながここに集まっていた。子供等は寝転んで本を見ているのもあれば、絵具箱を出して絵を描いているのもあった。