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こゆびいっぽんのおおじあい

小指一本の大試合

山中 峯太郎

「少年倶楽部」講談社、1931(昭和6)年1月号

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 5,932 字 · 13 页

青空文庫

すごい「ブル」

すごい「ブル」

「きみ! ブルはなまいきじゃないか?」と、一人が小声で、ささやくと、

「そうだよ、ブルはなまいきだとも! あんなにいばる男は、世界じゅうにないぜ」と、別の一人が答える。しかし、これも小声だ。

みんなが「ブルはなまいきだ」という。けれど、大きな声でいうものは一人もない。ブルにきこえたら、それこそ、どんな目にあわされるかしれないからだ。なにしろブルは強い。すごく強いんだ。拳闘の第一選手だし、おまけに、非常ならんぼうものだ。だれ一人、ブルにかなうものはない。

「来たよ来たよ、だまって!」

ブルがくると、だれもだまってしまう。うっかりして、相手になると、すぐにらんぼうされるからだ。それほど、みんながブルを、こわがってる。ガンと一つ顔でもなぐられたら、頬が五日もいたんで、一きれのパンも、かめなくなる。スープばかり吸っていなければならない、という評判なのだ。

そんな評判が、ほんとうだろうか? しかし、ブルの顔とからだつきを見ると、だれでも「なるほど」と思わずにいられない。――犬に「ブルドッグ」というのがいる。からだの幅がひろくて、骨組みが太い。肉という肉がはりきってる。