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こゆびいっぽんのおおじあい
小指一本の大試合
山中 峯太郎
「少年倶楽部」講談社、1931(昭和6)年1月号
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 5,932 字 · 13 页
が、しかし、なにしろ「小指一本」には、どうしたらいいか、自分でもわからないんだ。倶楽部長のフランクに、ふと冗談にいったのを、とても後悔したが、もういまのような大評判になっては、追いつかない。食堂へいくたびに、ブルはブルで、ぼくの小指ばかり、にらんでる。みんなはまた、ブルのいないところで、
「内村君、きみの赤ん坊の指を大事にしたまえよ!」と、本気になっていう。
新聞記者がまいにち、写真機を持ってきて、
「内村君の赤ん坊の指をうつさしてくれ」と、たのみにくる。日本の柔道には、小指一本で勝つ術があるのだと、みんなが信じてるのだ。
写真はもちろん、うつさせなかった。が、ぼくは気が気でない。しかし、弱った顔は見せられない。心の中で大弱りに弱ってると、いよいよ試合の日になった。倶楽部のテニスコートが、この日の試合場だ。審判官は一人ときめてフランクがなる。ところが、朝、夜の明けないうちから見物人がくるわくるわ、巡査が交通のとりしまりに十六人もかけつけてきたというさわぎだ。どうもしかたがない。
――ブルとぼくの小指一本の試合だ!
ブルは牛みたいなからだに、拳闘のしたくをかためて、堂々とあらわれた。