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こいわいのいっか
小祝の一家
宮本 百合子
「文芸」1934(昭和9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,193 字 · 31 页
信心がないから、貧乏するし、病人が出る。赤い息子なんぞ出来るのだ。そういうことを肴に、十銭分の焼酎をのみきると、おくびをしながら、帯の間のガマ口から、また十銭玉一つ出して買い足さした。亭主がつとめからひける刻限までお石は二三遍、十銭の焼酎を買いにやるのであった。
お石がやっとのことで帰った後、貞之助はもう一度勉の机の引出しから三十円の借金証文をとり出して来た。打ちかえしそれを眺め、再び仕舞いに立ちながら、
「――貧乏はついてまわるなあ」
それは祖父ちゃんが東京へ出てから初めて乙女の聞く沁々した調子であった。
「金があれば、あんげだし……」
「だから、兄ちゃんがいつも云うとおりだろ?」
乙女は、お石のような女を出入りさせるくちおしさと、祖父ちゃんの心持が変って来たらしい期待とで、口の中が乾いたような声で云った。
「世の中が別なようになれば、アヤだって安心して養生しれるんだよ」
ソヴェト同盟では、区にそれぞれ無料の病院があって療治をしてくれることなどを、乙女は祖父ちゃんにこまごまと、唇をなめなめ話してきかせた。「ソヴェトの友」のグラフなど、A市に一家がいた時分から勉が送ってやっていた。