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こいわいのいっか
小祝の一家
宮本 百合子
「文芸」1934(昭和9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,193 字 · 31 页
見習期間を入れて二十日ばかり働くと、乙女は「麗人座」をクビになった。いつまでたってもサービスを覚えないからと云うのである。
勉が寝床の中へまで本をもって入りながら、
「サービスって、みんなどんなことをやるんだ?」
と、はじめてそのときになってきいた。
「――わかんない!」
ウェーヴをかけた頭をふって、乙女は悄気た。
「わかんない!」と力をこめた云いかたが勉に四年前の乙女と自分とを思い起させた。
硝子障子のところに「豚肉アリマス」と書いた紙を貼り出した肉屋が、A市の端れにあり、乙女はそこの娘であった。勉の従弟が重い眼病で、A市の眼科に入院したとき、その病院の手伝いとして乙女が働いていた。二人は段々口をきくようになり、郵便局に勤めていた勉は、「戦旗」などをかしてよました。乙女は小学を出たばかりだが、注意深く興味を示して読んだ。いろいろ本をかりて読み、或るとき、何と思いちがいしたかマルクスの「資本論」をかしてくれと云った。五日ばかりすると、まだ下げ髪にしていた乙女が、小鼻に汗の粒を出してその本を患者の室へ返しに来た。
「――わかった?」
勉が、つい特長ある口元をゆるめ笑顔になって訊いた。