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こいわいのいっか

小祝の一家

宮本 百合子

「文芸」1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,193 字 · 31 页

青空文庫

却って勇なんぞの訊かないことを、この頃祖父ちゃんの方が訊いた。祖父ちゃんは、黙って乙女のたどたどしい説明をきいていたが、暫くして咳払いをし、棒をつき出すように、

「――駄菓子売の組合つはねのか」

と云った。乙女は、何だかどぎまぎして、眉をつり上げた。

「――知んないね」

また暫くだまりこみ、祖父ちゃんは煙管をかんでいたが、その煙管をとると力を入れて灰ふきをたたき、云った。

「早く勉のいうような世の中になんねば困る!」

それは、俺が困るという調子ではあったが、乙女は祖父ちゃんのこれは大きい発展であると感じた。

「んだからさ、祖父ちゃん、いつかみたよなこと云うもんでないてよ、ねエ」

一ヵ月ばかり前、勉が着ていた冬外套を乾したとき、ぼろぼろになっているのを貞之助がひっくりかえして見、

「――男が、三十近くんもなって、東京さいて、こげえなもん着て歩かねばなんねえとは――甲斐性がね」

と云い、乙女が思わずかっとなって諍った。そのことを云っているのであった。

祖父ちゃんは、しとしと雨のふっている外へ向ってゆっくり煙草の煙をはきながら、黙って膝をゆすった。

乙女は間もなくからみつくミツ子を祖母ちゃんにだまさせながら着換えに立った。