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こいわいのいっか
小祝の一家
宮本 百合子
「文芸」1934(昭和9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,193 字 · 31 页
二円、三円と金を送れたのは、初めの二三ヵ月のことであった。秋が深まってから、乙女は手編の毛糸マントをミツ子に送ってやった。養育費を送るという年より達との初めの約束は実現されなくなった。勉の命はとりとめた。けれども、その春以来、彼がその団体で献身的に働いていた出版部の活動が非常な困難に陥った。人手がなく、そして、金もなかった。朝、勉が丹精して集めた古い「マルクス主義」の合本を抱え、外套の襟を立てて耳の傷をかばい表から出かけると、乙女がその後を締めて水口から自分もついて出、顔なじみの古本屋の店頭で勉から十銭玉いくつか貰って引かえす。そういうことが一度ならずあった。
先ず、金を送って貰いたい。次いで、ミツ子がどんなにまきの手をふさぎ、そのために「おやき」の商売も減って来たかということを、勇の筆跡で細々くどいてよこした。勉夫婦は、自分達が金を送れないことについて深く気の毒に思った。だが、今川焼の売り上げがだんだん減るということを、一概にミツ子の厄介の故とばかりきめて小言を云って来ている親父の考えの狭さに勉はいやな感情をもった。十七になる次男坊の勇が、親父の云うまま、一行も自分の文句を加えずそのくどくどした手紙を書いてよこした気持をも、勉は少年時代から家を見た自身の経験から見落していなかった。