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ろうじゅうのめがね

小笠原壱岐守

佐々木 味津三

佐々木味津三『小笠原壱岐守』。同一底本的分册已合并为一书。收入:老中の眼鏡、十万石の怪談、流行暗殺節、山県有朋の靴。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 57,249 字 · 115 页

青空文庫

「平七」

「へい」

「…………」

「…………」

「秋だな」

「秋でござりますな」

なんというわけもなかった。有朋も有朋ということを忘れて、平七も平七ということを忘れて、いつともなしにふたりは肩を並べ乍ら、すすきの径の中に出ていたのである。――足が動いているのではなかった。こころが歩いているというのが本当だった。

どこへ、というわけもなく、ふたりは肩を並べ乍ら、土手の方へあがっていった。

「おまえはどちらへ行くつもりじゃ」

「どちらでもいいですが……」

「わしもどちらでもいいが……」

なんということもなかった。片身違いに足を動かしているうちに、いつのまにか平七はふらふらと、ゆうべのあの石原町の小料理屋の方へ歩いていった。

有朋もまた、いつのまにかそこへ行く約束をして了ったような顔をし乍ら、ふらふらと平七のあとからついていった。

うすい灯のいろが、ゆうべのように川岸の夕ぐれの中に滲んで、客もないのか、打ち水に濡れた石のいろが、格別にきょうはわびしかった。

「あっ。閣下じゃ。山県の御前様じゃ。――どうぞこちらへ。さあどうぞ! お雪、お雪……。お雪はどこだえ!」

和服の着流しではあったが、尖ったその顔で有朋と気がついたのである。