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しょうせつちゅうのおんな

小説中の女

豊島 与志雄

「サンデー毎日」1923(大正12)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,887 字 · 16 页

青空文庫

そして向う脛の両側に、大きなお灸の跡が二つついていた。そういうお灸の跡なんかは、彼女の足にはなさそうだった。がそれは外から見えないことなので、まああるものと想像しても事は足りた。――ただいけないのは、彼女の胴体の容積だった。墨絵式の雲をぼかした中に円に鳳凰や竜の古代更紗模様を入れた羽二重の帯で、固くしめつけられてはいたけれど、鳩尾から腹部へかけて、大きな山腹を思わせるような、ぼってりとした容積で肉がついていた。がみさ子はそれほど偉大な胴体を具えてはいなかった。何処か腺病質な弱々しい体だった。その上、彼女の肩の肉附も、みさ子には少し重々しすぎた。ただ肩がすらりとこけて首筋が長いのは、みさ子そっくりだった。

その時彼女は、私の視線を感じてか、一寸ぴくりとした身振で両手を挙げて、着物の襟をつくろい、絽縮緬の羽織の前をかき合せ、両の袂を膝の上に重ねた。その指先を見て、私は眼を見張った。それは全くみさ子の指だった。蛇のようによく物に絡みつく、長いしなやかな指、膝の神経痛と関係のある、一種病的な神経質な精緻な触感を持ってる指、そして円く反った細長い爪。みさ子はピヤノと編物とに適した手を持っていたが、まだどちらも習ってはいなかった。