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こさかいふぼくしスケッチ

小酒井不木氏スケッチ

国枝 史郎

「新青年」1926(大正15)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,809 字 · 12 页

青空文庫

狭い額の人間など、往々例外はあるにしても、先ず滅多に博士には成れない。眼は全く微妙である、瞶る時には充分に鋭く、瞶めない時には軟い。だが最も特色的なのは、笑われる時の鼻皺であろう。鼻皺を寄せて笑われる時、博士号は未練無く影を潜め、「田園の長者」の面影が――もっと雑言を許されるなら、村風子の面影が現われる。これは全く訪問者に執っては、何より有難い現象である。氏が常時博士で居られては、些少訪問者は窮屈である。全く時々には田園の長者の、質朴穏和な風貌に、接しなければ呼吸詰るだろう。……と、こんなように書いてくれば、では氏は常時博士で居られ、只時々に田園の長者を、発揮するのかと訊く人があろう。そこで私はお答えしよう。いや実は反対なのであると。氏は大方の場合には、田園の長者振の持主であるが、遇々相手を瞶められる時、博士の威厳が眉宇に現われ、寄っ付けない程に鋭くなると。

氏は非常に話上手であるが、それより一層聞き上手である。此の書斎へ通る程の、九分九厘迄の訪問者は、脂を嘗めさせられた蛙のように、自分の腸を自分の手で、引き出して了うに相違無い。腸を引き出すという点では、氏は将しく外科医である。