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しょうねんのし
少年の死
豊島 与志雄
「新潮」1916(大正5)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,400 字 · 27 页
枕頭の煤けた櫺子窓からほの白い夜明けの光りが射込むのを見ながら、うとうととして表を通る人の足音や車の音を聞いているのが、彼には一番快い時間であった。彼はよく櫺子窓の先の蜘蛛の巣を払い落した。それから毎朝表の足音や車の音をききながら、新聞屋だろうかとか牛乳屋だろうかとか考えた。それは実際巣鴨の場末の田舎に居た「肥桶」の嘗て知らない楽しみであった。人生の珍らしさと労働の健かさとが彼の心に夜明けと共に忍びこんで来るのであった。
「庄吉の野郎毎朝眼が覚めてるのに起きないんだよ。」とおせいは夫にいった。「図々しいったらありゃあしない。お前さんが黙ってるからつけ上るんだよ。少し躾をしてやらなくちゃ困るじゃないかね。」
金さんはただ首肯くばかりであった。彼は棟梁の仕事場から帰ってくると毎晩酒を飲んで、そのまま畳の上に寝転んで鼾をかいた。それを庄吉は蒲団の中に入れてやらなければならなかった。
「小父さん、小父さん! 寝るんだよ。」そういって庄吉は彼の頭を持ち上げた。
小父さんは薄眼を開いて庄吉の顔を見た。それから「うむよし。」といって床の中にはいった。彼の横には堅吉と繁とがもう眠っていた。