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しょうねんのし

少年の死

豊島 与志雄

「新潮」1916(大正5)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,400 字 · 27 页

青空文庫

そして客は中々帰りそうにもなかった。

物影には夕暮の闇がしっとりと纒っていた。そして庄吉はその夕闇の中に、獲物を狙う獣のようにじっと家の中を窺っていた。緊張した時間が静に過ぎ去って行った。

やがて客の帰る音がした。「うまくゆきそうだ」という小母さんの声がした、それからまたよくきき取れぬ金さんの声がした。それから後はひっそりと静まり返った。

庄吉はもういい頃と思って其処に立ち上った。そして木戸から共同水道栓の所へ出ようとした時小母さんが家の裏口から突然姿を現わした。庄吉は其処に立ち悚んでしまった。

小母さんは夕闇をすかして庄吉の姿をじっと見守った。それから物も云わないで彼の首筋を捉えてぐんぐん家の中に引きずり込んだ。そして庄吉を其処につき倒して、足で蹴り続けた。暫くは憤怒に声も出ないらしかった。

「何処にいたんだい!」と小母さんはそれだけ云った。庄吉は彼女の眼をつり上げて赤い顔をした凄じい形相を見た。

「さあ今日はみんな云わしてやる。」と云って小母さんは息をついた。「お前誰に頼まれて私達の話をかぎつけようとしてるんだい。今日ばかりはもう白状しないとこのままには置かないから、そう思うがいい。