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やまとむら

山と村

木暮 理太郎

「山」1934(昭和9)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,705 字 · 10 页

青空文庫

山に影が生じない所為であろうと思う。こうなれば其晩あたりきまって大雪が降る。猟の好きな人は一日を休んで兎狩などに出褂ける。雪が消えるといつも麦踏みに忙しい。

五月初旬の八十八夜前後には、季節の変り目を知らせる雷雨が赤城方面に発生して、雹などを降らすことがある。其夜は晴れて気温が急降し、霜柱が立ち、翌朝は大北風が吹く。この霜にやられるのは桑の若芽で、霜に凍て風に揉まれて、二、三日の後には焦げたように黒く縮れ、一週間後でなければ新芽は芽ぶかぬ。憂目を見るのは早く掃き立てられた蚕ばかりではない、止むなく之を河に棄てねばならぬ人に取りてもさぞつらいことであろう。しかし山の展望には見逃せない日である。近い山は緑に遠い山は白く、大海のはてに砕くる蒼波かと怪しむ許りの連山を超えて、潮のようにさしひく風に吹かれながら、皺という皺、襞という襞を隈なく顕している山肌をみつめていると、いつものことながら、これが一の美術品でなくて何であろうという感じがむらむらと起って来る。いつ迄眺めていても飽くことを知らない。

この頃にこのような風が吹くのは、最早冬が僅に残る赤城山頂の雪を殿りとして、生れ故郷の遠い北のはてへ退却するに際し、南方からの敵の追蹤を暫し阻止する為に、大返しに返した最後の一戦とも云う可きもので、間もなく裾野の村々には