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やまのうえのきとくものはなし
山の上の木と雲の話
小川 未明
「読売新聞」1922(大正11)年3月22~25日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,629 字 · 6 页
「あ、見ましたよ。それは、ここからは、たいそう遠いところであります。海を越えて、あちらのにぎやかな都会でありました。ある日の晩方、私は、その都会の空を、急いでこっちに向かって旅をしていますと、ちょうどあなたのおっしゃる美しい雲が、都会の空に浮かんでいました。下には、とがった塔や、高い建物などが重なり合って、馬車や、自転車などが往来の上を走っていました。そして、街の中は、たそがれかかって、燈火が、ちらちらと水玉のようにひらめいていました。」と、つぐみはいいました。
これを聞いていた木立は、深いため息をもらしました。
「いまは、そんなに遠いところに、雲はいってしまったのですか。」と、木は、さびしさにたえられなかったけれど、雲の無事なのを聞いて安心いたしました。
「どうか、また、その雲をごらんになったら、私のことをよく告げてください。」と、木は、つぐみに頼みました。
「きっと、あなたのことを雲に告げますよ。私は、もう明日はここを去って、遠くへゆきますから、また、どこかで、あの雲を見ますでしょう。」と、つぐみはいいました。
木は、またこのつぐみとも別れなければなりませんでした。