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さんじょうこ
山上湖
豊島 与志雄
「新潮」1949(昭和24)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,912 字 · 22 页
作業場の小さな水槽には、池から捕えられた雄鱒が群れている。それを一匹ずつ手掴みにして、腹をしぼり、放出する白い精液を、赤い卵のはいってる鉢に注ぎかける。用済みの雄鯵は、他の水槽の中に投げ込まれる。そして鉢の中を攪拌すれば、卵は受精し、暫くおいて、水中に鉢のまま安置する。あとはもう孵化を待つだけのことである。
私はいやな気がしながらも、その作業に心惹かれた。ここの鱒はすべて人工養殖に依るのであるが、産卵に戻ってくる雌鱒は、放流された場所だけを覚えていて、腹を裂かれたことは忘れているのであろうか。本能にその選択があるのであろうか。いずれにしても、宿命的に観れば、彼女等は一身を捧げて戻ってくるのだ。献身のために、争って岸辺へ群れ寄ってくるのだ。
水槽に投げ込まれた雄鱒は、また精子の成熟をまって、三度ぐらいは使用出来るのである。三度も。なんという有能さであろう。けろりとして三度も。
それらのことは、彼女等や彼等の知ったことではない。けれどもそれらの作業を行うのは人間である。それが実感として私の胸に来る。
私の夫は、私以外の女に二人も子供を産ませた。そして私が恋愛をすれば、相手の男を殺してしまうと猛りたった。