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やまぶきのはな
山吹の花
豊島 与志雄
「群像」1953(昭和28)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,727 字 · 22 页
へんな話だが、とにかく目見えに来て貰った。田宮は来合せていた久子に応対を任せた。
「よそに出て奉公なさるというからには、なにか事情もおありでしょうし、家の中が面白くないというようなこともおありでしょうが、こちら、気兼ねのない家ですから、らくな気持ちでいて下さいよ。」
そんなことを久子が言うと、Nさんは顔を伏せて涕をすすった。それから何かと用をして、帰りぎわに言った。
「一日いてみますと、そのお家の様子はよく分ります。わたくしでお宜しかったら、明後日から参ることに致します。」
人柄もよさそうだし、目見えを打ち切って、来て貰うことにきめた。
ところが、その日の帰り途に、Nさんは世話人の家に立ち寄って、田宮のところを断ったのである。猫がいやだというのだった。
「わたし、猫を見ると、ぞーっとするんですよ。それに、あすこの猫、白無地ときてるんでしょう、気味がわるくて……。」
Nさんとはそれきりになったが、どうも、初めから終りまで腑に落ちないことだった。
それから、Fさんというのはいいひとだった。七十歳ばかりの小柄なひとで、忠実によく働いた。顔立もととのい、身ぎれいで、モンペをきりっとつけていた。