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やまぶきのはな

山吹の花

豊島 与志雄

「群像」1953(昭和28)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,727 字 · 22 页

青空文庫

然し、穏かな日が続いた。

時とすると、空の半面を黒雲が蔽うこともあった。湖畔に出て様子を窺ったが、いつも当が外れた。黒雲は燕巣山の方面から四郎岳の方面にかけて屯していたが、風は反対の方から吹き、徐々に晴れていった。

湖面に吹きつける風は、長い息をついた。さーっと波頭を立てておいて、すぐに静まり、暫く間を置いて、思いがけない時にまたさーっと来た。方向も一定せず、右からも吹き左からも吹いた。水面の波頭がぶつかり合って渦巻くこともあった。

そういう渦巻きの中に、どこから舞い落ちたか、一枚の黄ばんだ木の葉が浮いていた。ゆるく廻り、また静止し、また廻り、いつとなく沖の方へ吹きやられていった。それを田宮はじっと眺めていたが、次第に小さくなり見えなくなる頃になって、はっと心を打たれた。久子、と思わず胸の中で呼んだ。

彼女は最後に、朝から終日、そして殆んど徹宵、次の日も終日、徹宵して、さまざまなことを繰り返し田宮に訴えた。

「大きな渦巻きの中に巻き込まれたような気持ちです。もう何もかも訳が分らなくなりました。ただ穢らわしい。腐ったような臭気には堪えられません。お別れしましょう。