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やまぶきのはな

山吹の花

豊島 与志雄

「群像」1953(昭和28)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,727 字 · 22 页

青空文庫

冬期は雪が深くて、ホテルも閉鎖し、一同山を下る土地なので、若者がその期間に何をしてるかは不明だが、ホテルが開かれてる間、彼はただ黙々として己が仕事をやり続けてるのだった。何を考えてるのか、不平も野心も影さえ見えず、大自然と同様に落着き払っていた。

この、哲人的風格を通して見ると、世の人の営みはまことに卑賤だった。

綾子の病気の頃、田宮の家には若い女中が一人いるきりで、手不足だったから、臨時に、通勤の女中を探すことにした。あちこち頼んでみると、案外に幾人も見付かった。それがたいてい、六十歳前後の婆さんなのだ。朝夕の食事は先方の自宅ですまして、午前八時頃から午後五時頃まで働いてくれる。田宮の愛人の久子が、一日おきぐらいにやって来て、病人の世話や家事をみていた。

久子の言うところによると、それらのお婆さんはみな、家庭的に不仕合せなひとばかりだった。

そのうちの一人、Kさんというのは、ちょっと得態の知れないひとだった。年は七十に近く、髪は半白で、顔中皺だらけだが、背が高くて頑丈そうだった。乾物問屋のワカメ束ねだの精米所の麻袋繕いや飯焚きだのに働いたこともあるそうだ。