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やまぶきちょうのさつじん
山吹町の殺人
平林 初之輔
「新青年」1927(昭和2)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,530 字 · 37 页
と彼はなるべく自然に話頭(わとう)を転換しようとした。
「ええ別にどなたも……そうそう、そういえば夕方ちょっとお巡(まわ)りさんが来ましたわ」
「何、巡査が?」
「ええ、ずいぶん人の悪いお巡りさんよ。わたしのことをいろいろ根掘り葉掘りきくんですもの」
「どんなことをきいたんだ?」
「………」
「なんてきいたの?」
「御主人とどういう関係ですかなんてね。妾(わたし)返事に困っちゃったわ。だってまだ籍ははいっていないし、姓がちがうから妹だなんて言うわけにもいかないし、仕方がないから親戚のものだって言っといたわ」
「なんだ、戸籍しらべか? それっきりだったかい?」
「帰りがけににやにや笑っていたわ。きっともう知っているのよ」
「何を知ってるんだ?」
「………」
三四郎は思わずにじりよったが、不図(ふと)勘ちがいで真面目になりすぎたことに気がついて、あとは笑いにごまかしてしまった。
それっきり二人はだまって食膳に向った。今朝の喧嘩のことも光子のことも二人とも一語も言わなかった。但し三四郎は嘉子の様子をそれとなく注視していた。彼には何もかもが意外だらけだった。恐るべき罪を犯した筈の嘉子のあの驚くべき落ちつきはどうだろう。