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やまぶきちょうのさつじん

山吹町の殺人

平林 初之輔

「新青年」1927(昭和2)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,530 字 · 37 页

青空文庫

「ああ怖かった。夢でしたのね。ああよかった。妾(わたし)何か言って?」

「何かうなされていたよ」

「まあこわかったわ――でも不思議ね。ちょうど妾(わたし)が考えていることを夢に見たのよ」

「どんな夢を見たんだ?」

「あなたが気を悪くするといけないから今は言えないわ。ああ恐ろしかった」

彼女はまだ恐ろしさにふるえていた。三四郎も恐ろしさにふるえた。恐怖にとらわれて二人は思わず顔を見あわせた。そして、相手の形相(ぎょうそう)を見て更(さら)にふるえた。恐ろしき夜は刻々にふけて行った。二人は無言のまま夜のあけるのを待っていたが、二人とも明けがたになって、うとうととまどろんだ。

五

翌朝、先に床(とこ)をはなれた嘉子は、玄関に投げこんであった××新聞の社会面を見たとき、もう少しで卒倒するところだった。

「昨夜牛込(うしごめ)山吹町の惨劇」、「被害者は妙齢の美人、犯人の目星つく」という初号活字を交(まじ)えた四段抜き三行の標題(みだし)で次のようなことが記されてあった。

「昨夜(さくや)十一時、牛込区山吹町××番地朝吹光子(二二)は何者かのために胸部を短刀で突き刺されて惨殺されておるのを発見された。