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やまぶきちょうのさつじん

山吹町の殺人

平林 初之輔

「新青年」1927(昭和2)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,530 字 · 37 页

青空文庫

朝の新聞で光子殺害の記事を見て、彼は大急ぎで山吹町の兇行の現場へかけつけ、約二十分ほどの間、現場を精細に観察したり、見張りの警官に二三質問したりしてその場を引き上げ、これから今度の事件の捜査本部になっている×××警察署へ行くところなのだ。現場の視察からは彼は新聞紙に報道されている以外には、何等(なんら)新しい証拠をつかめなかったらしく、ただ古新聞を一葉拾って来ただけだった。

「何かかわったことが見つかりましたかね?」

上野の名刺をもって出て来た×××署の佐々木(ささき)警部に向って、彼は一寸(ちょっと)パイプを口からはずしてたずねた。

「そうですな。」と佐々木警部は相手にも椅子(いす)をすすめながら、自分も椅子に腰を下(おろ)して徐(おもむ)ろに言った。「例の手紙の差出人がやっとわかりましてね、これから検挙に向うところです」

「すると差出人は新聞に出ていたのとはちがうんですな?」

「そういうわけでもないのですが、何しろ相手が官吏ですからな、××省へ行って、本人が果して実在の人物か否かをしらべ、本人の自宅の番地などもききたださねばならず、筆蹟などもよくくらべて見て、愈々(いよいよ)それにちがいないことをたしかめるには、新聞記者があてずっぽうに書きなぐるのとはひまがかかる点は認めていただきたいですな」