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やまぶきちょうのさつじん
山吹町の殺人
平林 初之輔
「新青年」1927(昭和2)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,530 字 · 37 页
して見ると九分九厘(くぶくりん)まではあの家(うち)の中にその手紙はのこっているに相違ないし、家の中にのこっている以上は、おそかれ早かれ臨検(りんけん)の警官に見つかるにきまっている。しかもその手紙には、今日の夕刻役所からの帰りにあの家へ立ち寄るということが記(しる)されてあるのだ。
彼は電車に乗って間もなくしまったと思った。あの手紙は女が懐中か或(あるい)は袂(たもと)の中へ入れていたのにちがいないということが気がついたのである。女の身のまわりを探さなかったことは何という取り返しのつかぬ不覚だったろう。彼には、被害者の襟元(えりもと)から、水色の封筒のはしがはみ出しているのが、まざまざ見えるような気がした。ほんとうにそれを見たようにさえ思われ出して来た。おまけに、何よりも困ったことには手紙の用箋に役所の用箋をつかったことだ。
いま一つの手落ちは、何者かが玄関の戸をあけて靴を盗んで行ったのに気のつかなかったことである。玄関と居間との間の襖はしまっていたから、中の様子が玄関から見えるわけはないけれども、彼は靴を盗まれても知らずにいた位だから、どんな隙間からのぞかれていたか知れたものでない。