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やまもとゆうぞうしのきょうち
山本有三氏の境地
宮本 百合子
「文芸」1937(昭和12)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,155 字 · 32 页
これなら一生食いそこないはないのだ」と、細君を失くした医者の後妻の縁談までを、一旦ことわりつつ「あんなに急にことわることはなかったのかもしれない。」とさえ思う。「しかし、もし結婚するのならそんな知らない人よりも……」気心も分っている公荘と、「前のことなんかすっかり水に流して」夫婦になってもよいと思うのである。
公荘と家庭をもった後も医者として勤めに出ていた允子は、やがて子供の教育には、母が家にいなければならないことを知り、勤めをやめる。「パパとママとどっちがいいと聞かれたので、どっちもいいと答えけるかな」子煩悩な両親と一人息子の生活は、作者の根気よい筆で、子供の探求心の問題、性教育の問題にまで殆ど育児教科書のように触れて行っている。
今や允男は、青年となった。允男を高等二年生にした二十年の歳月は、公荘と允子との生活をもいつしかかえ、彼等は郊外に木造の小じんまりした洋館を新築した。「家は出来るし、生活の不安はないし、允男の成績はいいし、一家は和平に満ちていた。」
然し、時代は、允子が允男に風邪をひかすまいとばかり心をくばって生きて来る間に、風波の高いものとなって来ている。