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やまつばき

山椿

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1948(昭和23)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,911 字 · 32 页

青空文庫

主馬は従妹の顔を見た。みちは俯向いて火を直しながら続けた。

「もっと近しくなさらなければね、此の頃は夕餉にもお酒を召上らないし、いつも黙ってむずかしい顔をしていらっしゃるわ、――そんなではおねえさまにも、気ごころの知りようがないじゃございませんか、もっと良人らしくしてあげなければお可哀そうよ」

「お母さんの箪笥と鏡台を持っていっていいよ」主馬は筆を取りながら云った、「暇があったら時どき来て呉れ、――家のことは心配しなくってもいい」

みちは従兄の横顔を見まもった。それから暫くして呟くようにこう云った。

「時には不作法が作法になることもありますわ」

結婚したら大沼兵庫がみちをひきとることに定っていた。従妹が去ると、明け昏れがにわかにひっそりとなった、そのなかで主馬は同じ言葉を繰り返し考え続けた、――不作法が作法になることもある、という言葉を。

祝言から十七日めに当る夜、主馬は夕餉に酒を命じた。彼は酒が好きで、朝食まえにも少し飲む、夕餉にはかなり過すことも珍しくはない、それはたいてい下僚の来ているときで、殊に脇田とか小野平助など賑やかな者が集まると、彼等と従妹のとりとめのない談笑を聴きながら、黙って楽しそうによく飲んだ。