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やまみち

山道

中里 介山

「改造」1926(大正15)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,368 字 · 15 页

青空文庫

ですよ」

「え、あなたは、あの小説大菩薩峠の著者を御存知なんですか」

Cなる青年が馬上の人を仰ぐ。

「知っていますとも――現にこの峠を越した多摩川の岸で船頭か粉挽をやっているはずです」

「そうですか――それはどうも意外でした」

そこで裂石の雲峰寺を出た紳士青年商人学生取り交ぜの一行が改めて馬上の人に注意することになりました。

「戯作者――徳川時代の通人、粋客、遊蕩児といったような半面を持っている男ですか」

「そうでもないのです、今もいった通り多摩川の岸で船頭や粉挽をやっている位の男ですからいわゆる通人という部類の男ではありますまい――遊戯思想ということをもう少し厳粛に考えているかも知れません」

「ところであの小説の中の Tsukue が主人公なのですか――よくあの男の性格をニヒリストだというのを聞きますが、して見れば著者は一種のニヒリズムをあの小説の中で歌っているのでしょうか。」

とAなる青年がいう。馬上の旅人がそれに答えて、

「ある読者が著者に向ってこういって来たそうです――もしも Tsukue に浅薄な改心の仕方をさせ、なまじいな善人とし、結末を仏門にでも帰せしめて大団円というような事にしたら、ただでは置かない――と。