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いわたふじんのしをいたむ
岩田夫人の死を悼む
岸田 国士
「婦人倶楽部 第三十一巻第六号」1950(昭和25)年6月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,409 字 · 5 页
と、やゝ厳粛に、しかし、仲間同志の内証話という調子で言つた。早く断つておくが、私をはじめ、彼の親しい友人のうち、特に私とも関係の深い誰彼が、偶然にも、前科一犯ぞろいなのである。
前科などという言葉使いは、甚だ穏やかでないようであるが、旧時代の男たちの間では、この種の用語に一種微妙な道徳的感慨を含めているわけである。
たしかに、妻を亡くした夫の身にとつては、常に多少の反省と悔悟が伴うものである。
岩田君の場合は、必ずしも特にそうである理由は毛頭考えられないが、彼も亦、その時は、普通の夫らしく、頭の一隅に、平凡な自責の片鱗をのぞかせたとしても、それはまたそれで、すこしも不自然でない。
いかなる条件の下にあつても、妻が先に世を去るということは、夫にとつて、たゞ「不憫」という一語以外に、その切ない感情を説明することはできぬように思う。そして、いかなる事情があつたにもせよ、彼女を死から救い得なかつた一事を、己れ以外の何人の罪とも考えられぬ瞬間が、度々彼を見舞うのである。
静子夫人には、軽度の心臓弁膜症の徴候があり、その症状の極めて稀なケースとして、遂に彼女の生命を一週間で奪つた脳血センなる突発的症状が起つたのである。