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みんざんのいんし

岷山の隠士

国枝 史郎

「大衆文芸」1926(大正15)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,095 字 · 19 页

青空文庫

「兵を指揮するということは、韻をふむよりむずかしい。そうすると俺より安石の方が、人殺しとしては偉いらしい。もう君王の玉馬鞭なんか、仮にも空想しないことにしよう……。ひょっとかすると殺されるかもしれねえ。何と云っても謀反人だからなあ、もう一度洞庭へ行って見たいものだ。松江の鱸を食ってみたい。女房や子供はどうしたかな? 幾人女房があったかしら? あっ、そうだ、四人あったはずだ」

李白はちょっと感傷的になった。

無理もないことだ、五十七歳であった。

李白は皆に好かれていた。

新皇帝粛宗に向かって、いろいろの人が命乞いをした。

宣慰大使崔渙や、御史中丞宋若思や、武勲赫々たる郭子儀などは、その最たるものであった。

そこで李白は死を許され、夜郎へ流されることになった。

道々洞庭や三峡や、巫山などで悠遊した。

李白はあくまでも李白であった。竄逐されても悲しまなかった。いや一層仙人じみて来た。人間社会の功業なるものが全然自分に向かないことを、今度の事件で知ってからは、人間社会その物をまで、無視するようになってしまった。

乾元二年に大赦があった。

まだ夜郎へ行き着かない中に、李白は罪を許された。