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しまばらのゆめ
島原の夢
岡本 綺堂
「随筆」1924(大正13)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,148 字 · 8 页
『戯場訓蒙図彙』や『東都歳事記』や、さてはもろもろの浮世絵にみる江戸の歌舞伎の世界は、たといそれがいかばかり懐かしいものであっても、所詮は遠い昔の夢の夢であって、それに引かれ寄ろうとするにはあまりに縁が遠い。何かの架け橋がなければ渡ってゆかれないような気がする。その架け橋は三十年ほど前から殆ど断えたといってもいい位に、朽ちながら残っていた。それが今度の震災と共に、東京の人と悲しい別離をつげて、かけ橋はまったく断えてしまったらしい。
おなじ東京の名をよぶにも、今後はおそらく旧東京と新東京とに区別されるであろう。しかしその旧東京にもまた二つの時代が劃されていた。それは明治の初年から二十七、八年の日清戦争までと、その後の今年までとで、政治経済の方面から日常生活の風俗習慣にいたるまでが、おのずからに前期と後期とに分たれていた。
明治の初期にはいわゆる文明開化の風が吹きまくって、鉄道が敷かれ、瓦斯灯がひかり、洋服や洋傘やトンビが流行しても、詮ずるにそれは形容ばかりの進化であって、その鉄道にのる人、瓦斯灯に照される人、洋服をきる人、トンビをきる人、その大多数はやはり江戸時代からはみ出して来た人たちである事を記憶しなければならない。