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かわなみ

川波

久生 十蘭

「別冊文藝春秋 第五十一号」1956(昭和31)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,022 字 · 18 页

青空文庫

「倫子さん、あせるとしくじるぞ。ゆっくり行こう」

「えゝ、ゆっくりね……でも、冷たいわね。どうしたんでしょう。なんだか、眠たくなってきたわ」

倫子の身体が沈み、頭のうえを川波が越えていく。

「どうした、倫子さん」

「あたし、だめらしい。足が痙ってきた……情けないわね。こんなところで死ぬのかしら」

和田が倫子のそばへ泳いで行って、頭をひきたてようとすると、倫子が和田を突き退けた。

「あたしが重石じゃ、あなたが、泳げそうもないから」

「バカなことを言ってないで、おれに掴まれァいいんだ」

「いいのよ。ここまで来たけど、やはり、だめだったわ……あきらめます」

水に濡れしおった顔をあげて、もうよほど近くなった瑞西の町の灯をながめていたが、うねりにおされて、それなり波の下に沈んだ。