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じゅんさじしょく

巡査辞職

夢野 久作

「新青年」1935(昭和10)年11~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页

青空文庫

何が可笑しいのか突然にゲラゲラと笑ったので、草川巡査は又もゾッとさせられた。

草川巡査は妙な顔をしたまま靴を脱いで、台所の板の間に上った。以前の母家から持って来たものであろう。家に不似合な大きな戸棚の並んでいる間から、中の間に通う三尺間を仕切っている重たい杉の開戸を、軍隊手袋を嵌めた両手で念入りに検査した。それは真鍮製のかなり頑固な洋式の把手で、鍵穴の附いた分厚い真鍮板が裏表からガッチリと止めてある。それが、やはりこの家に不似合なものの一つに見えた。

「この把手はお前が取付けたんか」

「いいえ。養母さんが取付けたのだそうです。一軒家だから用心に用心をしておくのだと云って、養母さんが自分で町から買うて来て、隣村の大工さんに附けてもろうたのだそうです」

「そうするとこの家に引移った当時の事だな」

「よく知りませんがヨッポド前だそうです」

「フム。毎晩この鍵を掛けて寝るのか」

「ハイ。私が寝ると、養母さんが掛けに来ます」

「そうすると鍵は養母さんが持って、寝ている訳じゃのう」

「ハイ……そうらしう御座います」

「うむ。惨酷い事をするのう」

そう云って草川巡査は、うなだれている一知の顔を見たが、暗いので顔色はよくわからなかったけれども、モウ肩を震わして泣いているらしかった。