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じゅんさじしょく

巡査辞職

夢野 久作

「新青年」1935(昭和10)年11~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页

青空文庫

いずれも極めて鋭利な重たい刃物で、アッと云う間もない唯一撃ちに片付けられたものと見えた。蚊帳には牛九郎老人の枕元に血飛沫がかかっているだけで、ほかに何の異状も認められないところを見ると、二人の寝息を窺った犯人は、大胆にも電燈を灯けるか何かして蚊帳の中に忍び入って、二人の中間に跼むか片膝を突くかしたまま、右と左に一気に兇行を遂げたものらしい。何にしても余程の残忍な、同時に大胆極まる遣口で、その時の光景を想像するさえ恐ろしい位であった。

草川巡査は持って来た懐中電燈で、部屋の中を残る隈なく検査したが、何一つ手掛になりそうなものは発見出来なかった。ただ老夫婦の枕元に古い、大きな紺絣の財布が一個落ちていたのを取上げてみると、中味は麻糸に繋いだ大小十二三の鍵と、数十枚の証文ばかりであった。草川巡査はその財布をソッと元の処へ置きながら指した。

「これが盗まれた金の這入っていた袋だな」

「……そう……です……」

と云ううちに一知は今更、おそろしげに身を震わした。

「現金はイクラ位、這入っていたのかね」

「明日……いいえ、今日です。きょう信用組合へ入れに行く金が四十二円十七銭入っていた筈です。