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じゅんさじしょく
巡査辞職
夢野 久作
「新青年」1935(昭和10)年11~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页
そうしてその土蔵の背後に在る畠境いの塵捨場には、珍らしい缶詰の殻や、西洋菓子の空箱や、葡萄酒の瓶なぞがアトからアトから散らかるようになった。そうして眼に痛い程明るい五十燭や百燭の電燈と、賑やかなラジオの金属音が、又もや毎晩毎晩丘の上から流れ落ち初めて、村の家々を羨ましがらせ、且、悩ました。どうかすると十二時頃まで、奇妙な支那の歌声や、器楽の音なぞが、チイチイガアガア鳴り響くのであったが、それに気が付くたんびに村の人々は顔を見合わせた。
しかし、それでも夜が明けると一知夫婦はキチンキチンと仕事に精を出し、墓参りを怠らなかった。忌日忌日の法事も若いのに似合わず念入りに執行って、村中の仁義交誼を怠らない気ぶりを見せた。
これに反して草川巡査は日に増し憂鬱になって行った。心の奥底で何事かを煩悶しているらしく、高文の受験準備をやめてしまったばかりでない。夜通し眠らないような力無い鬱陶しい眼付をしてヒョロヒョロと巡回して歩く姿が、次第に村の者の眼に付くようになった。顔には無精鬚が茫々と伸び、頬がゲッソリと痩せこけて、眼ばかり、奥深く底光りするようになった。夕方なぞ見窶らしい平服で散歩するふりをして駐在所を出ると、わざと人目を忍んだ裏山伝いに、丘の上の深良屋敷の近くに忍び寄って、木蔭の暗がりに身を潜めつつ、新夫婦の仲