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じゅんさじしょく
巡査辞職
夢野 久作
「新青年」1935(昭和10)年11~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,907 字 · 63 页
仕方なしに山の中で兇器捜査に従事している草川巡査に縋り付いて、何とかして息子を救う方法は無いものかと泣きの涙で尋ねたが、これも腕を組んで、眼を閉じて、頭を左右に振るばかりである。もとより拘引の理由なぞを洩しそうな態度ではないので、手も力も尽き果てた区長は大急ぎで町へ出て弁護士の家へお百度詣りを始めた。
一方に拘引された一知は全く驚いた顔をしていた。
厳重な取調を受けても一から十まで「知りませぬ」「わかりませぬ」の一点張りで、女のようにヒイヒイ哭くばかりであった。その中に問題の藁切庖丁を売った店の番頭が呼出されて来て、一知の顔を見せられると、たしかにこの人に相違ないと明言し、当日持っていた蟇口の恰好や、学生らしくない言葉癖まで思い出した立派な証言をして帰ったので、係官一同はホッと一息しながら、直ぐに起訴の手続を取った。
しかし一知は、それでも頑張った。
「私は誰にも怨恨を受ける記憶はありませぬ。しかし藁切庖丁の一件はたしかに私を罪に陥れるためのトリックです。それがわからないのは、貴方がたのお調べが足りないからです。在りもしない藁切庖丁で、どうして人を殺すことが出来ますか」