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こうがくはくしすえひろきょうじくん
工学博士末広恭二君
寺田 寅彦
「科学」1932(昭和7)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,788 字 · 12 页
人には無闇に本を読んでも駄目だと云ってはいたが、実によく読書し、また人の論文でもよく目を通した。読み方も徹底的で、腑に落ちないところはどこまでも追究しないと気がすまないという風であった。朝は寝坊であったが夜は時には夜半過ぐるまで書斎で仕事をしていたそうである。たまにはラジオで長唄や落語など聴く事もあった。西洋音楽は自分では分らないと云っていたが、音楽に堪能な令息恭雄氏の話によると相当な批判力をもっていたそうである。
運動で鍛えた身体であったが、中年の頃赤痢にかかってから不断腸の工合が悪かった。留学中など始終これで苦しみ通していた。そのせいでもあるまいが当時ドイツの風俗、人情、学風に対する色々な不満を聞かされた記憶がある。しかし英国へ渡ってからは彼の国の風物がすっかり気に入って喜んでいたようであった。それが後年盲腸の手術を受けてからすっかり能くなった。晩年には始終神経衰弱の気味があったが、これはおそらく極度の勤勉の結果であろうと想像された。
米国から講演の依頼を受けた時にも健康の点でかなり躊躇していたが、人々もすすめたので思い切って出かけたのであった。