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おぐらいけのはす

巨椋池の蓮

和辻 哲郎

「新潮」1950(昭和25)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,016 字 · 12 页

青空文庫

そういう印象を受けたのは、ほのぼのと夜が明けて来て、広い蓮池が見渡せるようになった時であるが、それが何時ごろであったかははっきりしない。四時と五時の間であったことだけは確かである。どれほど長くこの光景に見とれていたかということも、はっきりとは覚えていない。が、やがてわれわれは、船頭のすすめるままに、また舟を進ませた。蓮の花の世界の中のいろいろな群落を訪ね回ったのである。そうしてそこでもまたわれわれは思いがけぬ光景に出逢った。

最初われわれの前に蓮の花の世界が開けたとき、われわれを取り巻いていたのは、爪紅の蓮の花であった。花びらのとがった先だけが紅色に薄くぼかされていて、あとの大部分は白色である。この手の花が最も普通であったように思う。しかし舟が、葉や花を水に押し沈めながら進んで行くうちに、何となく周囲の様子が変わってくる。いつの間にか底紅の花の群落へ突入していたのである。花びらの底の方が紅色にぼかされていて、尖端の方がかえって白いのであるが、花全体として淡紅色の加わっている度合が大きい。その相違はわずかであるとも言えるが、しかし花の数が多いのであるから、ひどく花やかになったような気持ちがする。