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こうだんし

巷談師

坂口 安吾

「別冊文藝春秋 第一七号」1950(昭和25)年8月3日発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,894 字 · 22 页

青空文庫

彼は疲れたのかドッコイショとねころんで枕をつけて、

「今夜、出直しておいで。それが、いいよ。出走表を見て、教えてあげるよ。確実なところだけね。穴はよしな。八時半に、きなよ」

私も立上って、

「もう競輪へ行く気がないから、たぶん、来ないだろうよ。だが、気が変ったら、その時は教えてもらうよ」

彼はうなずいた。

「競輪でぼくを見かけたら、声をかけな。教えてあげる」

彼は眼をとじて、呟いた。

私はだまって部屋を去った。

これも巷談の反響なのである。競輪の反響は共産党以上に凄かった。競輪のせちがらい性格によって、その反響には凄味がこもっていたのである。もっとも凄味のこもった手紙は多くはないが、こもった凄味は格別だった。

それをあからさまには書けないが――というのは、当人の家族や知人に知れると気の毒だからで、一方巷談師はゾッとすくむようなのが舞いこんでくるのであった。

二葉の写真(自分の姿を撮したもの)と履歴書を同封してきた老人があった。英国に留学し、二三会社の社長をつとめ、公務で何回か渡欧した経歴をもつが、今は落ちぶれている人である。落ちぶれる経路は手紙にルルしたためてあり、それは陰惨そのものであるが、これも書くわけにはいかない。