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ほ

帆

宮本 百合子

「文芸春秋」1927(昭和2)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,973 字 · 25 页

青空文庫

銀杏返しに結った平顔の、二十五六の女が変な顔をして出て来た。疑わしげに、女は藍子を上下に見ながら、

「どんな御用なんでしょう」

と云った。

「尾世川さんのことで上ったんですが、おいそがしくなかったらちょっとお話したいと思って……」

「あ、そう……じゃどうぞこちらへ」

女は先に立って、廊下のつき当りの小間をあけかけたがそこはそのままにして、次の間へ藍子を入れた。

「ちょいと御免なさいね、今お火をもって来ますから」

八畳の座敷で、障子の硝子越しに、南天のある小庭と、先にずっと雪に覆われた下谷辺の屋根屋根の眺望があった。

藍子は、女が若しか廃業でもしたい気かも知れないと思って来たのであったが、その推察ははずれていたのを知った。

「あんたの気持をよく聞いて帰れば、尾世川さんも種々しいいんだから」

千束から人の来たことを話しても、女は身にしみては聴いていない風であった。打ちあけて何も話さず、てんから藍子が尾世川の何かでありでもするように、

「ねえ、あなた。後生だから一目尾世川さんに会わして下さいよ。あなたの御迷惑んなるようなこと、きっとしませんから、ね? 一目会わして下さい」